ニルヴァーナは、90年代のグランジ・ムーブメントを牽引したアメリカのロックバンドだ。フロントマン、カート・コバーンは27歳で自ら命を絶ち、バンドも解散したが、彼の音楽は今も世界中で愛され続けている。カートの歌詞は、絶望や孤独、反抗心を赤裸々に吐き出しながら、キャッチーなメロディで聴く者を虜にする。この記事では、ニルヴァーナの代表曲「Breed」「Smells Like Teen Spirit」「Lithium」を通して、カートの心の闇とその魅力を紐解く。2025年、彼が生きていれば57歳。どんな音楽を生み出していただろうか。
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1. Breed:自由と恐怖の叫び
「Breed」は、アルバム『Nevermind』(1991)に収録された疾走感溢れる一曲。シンプルかつ攻撃的なギターリフと、カートの荒々しいボーカルが炸裂する。歌詞は、家庭や社会の枠組みからの逃避と、無責任な自由への渇望を描く。「子供はいなくていい、家を植えても、木を建ててもいい」と歌うカートは、常識を拒絶し、幽霊や老いへの恐怖を叫びながらも「気にしない」と突き放す。ライブでのエネルギッシュなパフォーマンスは圧巻で、ファンがこの曲を「ライブで聴きたい」と熱望するのも納得だ。
エピソード:『Nevermind』のレコーディング中、カートはプロデューサーのブッチ・ヴィグと衝突しながらも、短期間でこの曲を完成させた。カートは「Breed」の歌詞を即興で書いた部分が多く、彼の衝動的な感情がそのまま反映されている。1992年のレディング・フェスティバルでのパフォーマンスでは、観客が一体となって飛び跳ねる様子が、曲の解放感を象徴していた。
YouTubeで聴く:Nirvana – Breed (Live At The Paramount/1991)
参照元:Youtube
和訳
I don’t care, I don’t care, I don’t care, I don’t care, care if I’m old
(年寄りでも気にしない)
I don’t mind, I don’t mind, I don’t mind, I don’t mind, mind if I don’t have a mind
(心がなくても構わない)
Get away, get away, get away, get away, away, away from your home
(お前の家から出ろ)
I’m afraid, I’m afraid, I’m afraid, I’m afraid, afraid of a ghost
(幽霊が怖いんだ)
Even if you have, even if you need, I don’t even care
(お前が持っていても、必要としても、俺は気にしない)
We don’t have to breed, we could plant a house, we could build a tree
(子供はいなくていい、家を植えても、木を建ててもいい)
I don’t even care, “we could have all three” shesaid
(「全部手に入れるわ」って彼女が言っても俺は気にしない)
2. Smells Like Teen Spirit:グランジのアンセム
ニルヴァーナの代名詞であり、グランジを世界に知らしめた「Smells Like Teen Spirit」は、『Nevermind』のリードシングルだ。重厚なギターリフと「Hello, hello, hello, how low?」の挑発的なコーラスは、一聴で心を掴む。歌詞は、退屈と反抗、自己嫌悪を混ぜ合わせたティーンエイジャーの心情を捉える。「光が消えたら、危険じゃなくなる」「楽しませろ」と歌うカートは、社会への不満と無気力を皮肉たっぷりに表現した。この曲はMTVでヘビーローテーションされ、ニルヴァーナを一躍スターダムに押し上げた。
エピソード:カートは、この曲がここまでヒットするとは予想していなかった。タイトルは、友人が彼のガールフレンドのデオドラントの匂いにちなんで冗談で言った「Teen Spirit」に由来する。カートは後年、曲の商業的成功に複雑な思いを抱き、ライブで意図的にアレンジを変えて演奏することもあった。1991年の『Saturday Night Live』でのパフォーマンスは、バンドのエネルギーとカートのカリスマ性を象徴する名演だ。
和訳
Load up on guns and bring your friends
(銃を積んで友達を連れてこい)
It’s fun to lose and to pretend
(我を忘れるのもその振りをするのも楽しい)
She’s over bored and self-assured, oh no
(彼女は退屈しすぎて高慢)
I knew a dirty word
(俺は汚い言葉を知ってる)
Hello, hello, hello, how low?
(こんにちは、どれだけ低い?)
With the lights out, it’s less dangerous
(光が消えたら、危険じゃなくなる)
Here we are now, entertain us
(俺たちはここにいる、楽しませろ)
I feel stupid and contagious
(愚かさがみんなに伝染していく)
A mulatto, an albino, a mosquito, my libido
(混血児、アルビノ、蚊、俺の性欲)
Yay
3. Lithium:絶望と救いの狭間で
「Lithium」は、『Nevermind』に収録された、静と動が交錯するドラマチックな一曲。カートが語った「ガールフレンドを失った男が宗教に救いを求める物語」は、彼の過酷な青春と精神的な闘いを映し出す。両親の離婚、虐待、放棄された経験から、10代のカートは友人の家で新生キリスト教に触れたが、やがて信仰を捨てた。歌詞の「I’m so ugly, I’m so lonely」や「I killed you」は、自己嫌悪と罪悪感の告白だ。タイトル「Lithium」は、双極性障害の治療薬を指し、カートの診断と宗教の「鎮静作用」を重ね合わせる。サビの「I’m not gonna crack(俺は潰れないぞ)」は、壊れそうな心の抵抗の叫びだ。
エピソード:レコーディングでは、カートの苛立ちが爆発。ドラマー交代後の1991年、ブッチ・ヴィグとのセッションでギターを叩き壊すほどの激情を見せたが、翌日完成したトラックはバンドの最高傑作の一つに。1992年のシングルリリースでは、チャートこそ他のヒット曲に及ばなかったが、感情の爆発力でファンを魅了した。カートのいとこベヴァリーは、彼の双極性障害とリチウムの関係を証言し、曲の深い背景を浮き彫りにした。
和訳
I’m so happy ‘cause today I found my friends, they’re in my head
(今日、友達を見つけたから幸せだ、そいつらは俺の頭の中にいる)
I’m so ugly, that’s okay, ‘cause so are you, we’ve broke our mirrors
(俺は醜い、でもそれでいい、お前もそうだ、鏡を壊した)
Sunday morning is every day for all I care, and I’m not scared
(日曜の朝は毎日だ、俺には関係ない、怖くもない)
Light my candles in a daze ‘cause I’ve found God
(ぼんやりとろうそくに火をつける、だって神を見つけたんだ)
I’m so lonely, that’s okay, I shaved my head, and I’m not sad
(俺は孤独だ、でもそれでいい、髪を剃って、悲しくない)
And just maybe I’m to blame for all I’ve heard, but I’m not sure
(俺が聴いたことの責任は俺にあるのかも、でも確かじゃない)
I like it, I’m not gonna crack
(気に入ってる、俺は潰れないぞ)
I miss you, I’m not gonna crack
(お前が恋しい、俺は潰れないぞ)
I love you, I’m not gonna crack
(お前を愛してる、俺は潰れないぞ)
I killed you, I’m not gonna crack
(お前を殺した、俺は潰れないぞ)
ニルヴァーナの遺したもの
「Breed」の自由への衝動、「Smells Like Teen Spirit」の青春の怒り、「Lithium」の救いへの葛藤。これら3曲は、カート・コバーンの心の断層を露わにする。グランジの荒々しさとポップなメロディが融合した彼らの音楽は、時代を超えて共感を呼ぶ。カートの死から30年以上経った今も、ニルヴァーナの曲は孤独や痛みを抱える人々の心に響き続ける。彼の魂は、音楽を通じて永遠に生きている。
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